その4:シナリオをリッチにしよう

前回でようやくシナリオが完成しました!

しかしシナリオを公開したい!と考えている方には、前回の形のままだと少し物足りなく感じるかもしれません。

正直この先の文章の書き方は完全に人それぞれになりますので、この先は私個人がシナリオを書くときに私が気をつけていることをまとめます。

前回完成させたシナリオ「わんだふる・でいず」はフリー素材ですので、このシナリオを元にシナリオをリッチにする練習をしていただいても構いません(万が一練習した時は教えてください、見たいので)。


①シナリオの形を整える

とりあえずおさらいで前回完成したシナリオを持ってきます。

 

クトゥルフ神話TRPG「わんだふる・でいず」

・前提条件:探索者は犬が好きだ

・ある日、探索者が目覚めると足元に一匹の犬がいた、どこから入ってきたかはわからない

・犬は探索者のズボンの裾を咥えて引っ張る、どうやら外に出たいらしい

・犬に連れられるまま、探索者は外を散歩し始める

・探索箇所として隣の家(犬の大切な人がいる場所)が出てくる

・隣の家に行けば、おばさんが快く出迎えてくれる

・おばさんから「主人が亡くなった話」を聞ける

・犬の言動の癖が亡くなった主人の言動と一致することに気がつく

・犬は「正体がバレるまで現世で犬として動ける縛り」があったことを念話みたいなもので探索者に伝える

・犬の正体が実は亡くなった主人(おじさん)だった

・犬は探索者にお礼をしながら息を引き取る

 

・エンディング…戯れに犬に魂を入れた神(ニャルラトホテプ)の声が聞こえ、選択を迫られる

A:探索者は隣の家のおばさんと仲良くなり、犬のことを忘れない。

B:探索者は犬のことを忘れ、今まで通り過ごす。

 

 

ここからシナリオをリッチにしていくんですが、まずはシナリオの全体の形を整えます。

今までたくさん見てきたシナリオを元に、これはいるんじゃないか?っていう項目を見ようみまねで書いていくのです。

例えばこんな感じです。

 

概要

PL事前情報

真相

NPC情報

本文

エンディング

 

この項目に沿ってそれぞれ文章を入れていきます。

決まってないところは後から埋めても大丈夫。

とりあえず今はコピペでいいでしょう。

 

概要

クトゥルフ神話TRPG

「わんだふる・でいず」

 

ある日、探索者が目覚めると足元に一匹の犬がいた。

 

PL事前情報

人数…1人

時間…3時間くらい

探索者条件…犬が好き

 

真相

犬の正体は隣の家のご主人だった。戯れにニャルラトホテプが犬に人間の魂を入れた。

 

NPC情報

犬(おじさん)

犬の姿をした中身がおじさん。

 

おばさん

隣の家のおばさん。

 

本文

ある日、探索者が目覚めると足元に一匹の犬がいた、どこから入ってきたかはわからない

犬は探索者のズボンの裾を咥えて引っ張る、どうやら外に出たいらしい

犬に連れられるまま、探索者は外を散歩し始める

探索箇所として隣の家(犬の大切な人がいる場所)が出てくる

隣の家に行けば、おばさんが快く出迎えてくれる

おばさんから「主人が亡くなった話」を聞ける

犬の言動の癖が亡くなった主人の言動と一致することに気がつく

犬は「正体がバレるまで現世で犬として動ける縛り」があったことを念話みたいなもので探索者に伝える

犬の正体が実は亡くなった主人(おじさん)だった

犬は探索者にお礼をしながら息を引き取る

 

 

エンディング

戯れに犬に魂を入れた神(ニャルラトホテプ)の声が聞こえ、選択を迫られる。

A:探索者は隣の家のおばさんと仲良くなり、犬のことを忘れない。

B:探索者は犬のことを忘れ、今まで通り過ごす。

 

これで全体の形は整いました。

後はひたすら書く!めっちゃ書く!の作業です。

 

 

書く!の作業は人によってはひどく苦痛かもしれませんし、逆に好きだ!という人もいるでしょう。

正直私は文章を書くのが好きでたまらないからシナリオを書けている部分もあるため、この先の内容が参考になるかはわかりません。

どれだけシナリオの文章を凝るかは本当に人それぞれです。

なのでこの先はどうか参考程度に見ていってください。

 

②どんな文体にするか?

シナリオの文体にはさまざまなものがあります。

正直文体はこれまで見てきた文章のセンスに影響される部分が多いので、何が正解というものはありません。

自分がこれなら書ける!とか、これが書きたい!というものに正直になるのが一番だと思います。

 

上記のシナリオを参考に、さまざまな文体で導入部分を書いてみたいと思います。

一番大切なことは、一度こうと決めたら文体はズラさないことです。

例えばA文体とB文体がごちゃ混ぜになった文章は読みにくく、読んでプレイするKPにストレスを与えます。

 

 

A:淡々とした文章(比較的書きやすい。シナリオとしての味は出にくい)

ある日、探索者が目を覚ますと足元に一匹の犬がいた。

犬はベッドで寝ていた探索者のズボンの裾に噛み付くと、一生懸命外に出ようと引っ張ってきた。

探索者は葛藤するかもしれないし快く受け入れるかもしれない。

何はともあれ探索者は外に出るために支度をすませ、犬と共に外に出かけるだろう。

 

探索箇所

隣の家・近所の公園

(KP情報…隣の家に行くとイベントが進行する。必要があれば先に近所の公園に誘導する)

 

 

B:情緒的な文章(美しい雰囲気のシナリオには最適。書く量が増える)

その日は北風がひどく強い日であった。

布団から外に出ることも億劫で、存外早く覚めてしまった目をもう一度閉じようとあなたは布団を被り直す。

窓から吹き込む隙間風がぴゅうと音を鳴らすたびに、今日が休日でよかったと強く感じることだろう。

しかし布団を被りすぎたかいい加減に少し熱く感じてきた。

足を出せば少しは熱も冷めるだろうとあなたが布団から足を出したその時、ズボンの裾を強く引っ張る何かを感じ取った。

 

慌てて布団を跳ね除けて起き上がれば、足元にいたのは一匹の犬だった。

見たところ首輪すらつけていない、野良の成犬といったところだろうか。

犬はしきりにあなたのズボンの裾を口で噛んで引っ張っている。

大切なパジャマが濡れたじゃないかと思うかもしれないし、犬が好きなあなたには些細なことかもしれない。

くぅーんと悲しげに鳴く犬は、どうやらあなたに一緒に外に出て来てほしいと願っているかのように見えた。

 

あなたが犬から何を感じたかはわからないが、ともかくあなたは犬と共に外に出ることを決める。

軽く身支度を整えて、リードすらついていないのにあなたの横から離れない変わった犬と共に外に出る。

北風がまた一層強く吹き付けてくる。空は晴れているものの、太陽光はさしてあなたを暖めてはくれない。

にも関わらず犬は大層元気に歩いている。その姿はどこか急いでいるようにも見えた。

 

探索箇所

隣の家・近所の公園

(KP情報…隣の家に行くとイベントが進行するため、必要であれば先に近所の公園に誘導してもいいだろう)

 

 

C:海外風(皮肉っぽい感じの雰囲気で独特の雰囲気が出せる。雰囲気の合う合わないがわかれる)

端的に言えば、朝起きた時、足元に知らない犬がいた。

そうだ、ベッドに気持ちよく寝転がっていたところにそいつは突然やってきた。

ベッドからはみ出したズボンの裾にしっかり噛みついて離さない。よほど躾のなっていない犬だと探索者は考えるかもしれない。

探索者は仕方なく起き上がるかもしれないし、そのまま放置して二度寝するかもしれない。

 

探索者が諦めて起き上がるまで犬の必死の抵抗は続くだろう。

観念して探索者が起き上がれば、犬は待ってましたと言わんばかりに探索者を部屋の外に連れ出そうとするだろう。

これに対し素直に応じるか、やってられないと無視するかは探索者の自由だ。

もしどうしても探索者が犬を無視して二度寝するならば、その時はすぐさまエンディングC「何も始まらなかった」に移行していい。

 

探索者が素直に犬に連れられて外に出るとするならば、強い北風が探索者の頬を殴ってくる。

まったく今日は寒い日で、とっておきの冬物のコートを着ていかないと寒くて仕方ないだろう。

そうして探索者は犬に連れられるがまま歩き出すだろう。

 

探索箇所

隣の家・近所の公園

(KP情報…隣の家に行くとイベントが進行するが、探索者がこれを無視するのであればKPは気まぐれに獰猛な野良犬を出して誘導しても構わない。先に近所の公園に行かせるというのも手だろう)

 

 

D:敬語(丁寧な雰囲気が簡単に出せてさまざまなシナリオの雰囲気に合いやすい。書いていると意外と敬語が外れやすいので要注意)

その日は北風がひどく冷たい日でした。

しかし布団の中は体温ですっかり暖かくなっていたものですから、あなたは足を外に出して少し涼もうとしました。

するとどうでしょう、足を引っ張ってくる知らない何かがいるではありませんか。

幽霊か不審者か、何事かとあなたが起き上がれば、足元にいたのは一匹の大きな犬でした。

ペットを飼っている記憶はなかったはずです。

思考を巡らせれば、おそらくこの犬は、近所をよく徘徊している野良犬の一匹なのではないかと思い当たります。

 

犬はしきりにベッドからはみ出したあなたのズボンの裾を引っ張っていました。

ただ事ならぬ様子にあなたはすぐに外に出る準備をしたでしょうか、それとも寒さにやられて少し憂鬱な気持ちでしょうか。

いずれにせよあなたが外に出るそぶりを見せれば、犬は大層喜びました。

その証拠に先ほどまで悲しげにくぅーんと鳴いていたのに、今は尻尾がぶんぶんと大きく左右に揺れています。

あなたはとっておきのコートを羽織り、北風がぴゅうと強く吹き付ける外へと出かけていくことになるでしょう。

 

探索箇所

隣の家・近所の公園

(KP情報…隣の家に行くとイベントが進行します。必要があれば先に近所の公園に行くといいでしょう)

 

 

他にもいろいろな文体があるので、これが正解というものは特にないと思います。

自分が憧れているシナリオを書いている人や、小説や本、いろんなものからインプットするのが一番です。

③少しでもシナリオっぽい文章にするために

とはいえ、上記まででぶん投げると流石に不親切すぎるので、少しでもシナリオっぽい文章になりそうな小手先のテクニックを紹介しておきます。

先に言っておきますが、本気でシナリオをリッチにしたいならひたすら書いて、書いて、慣れていくしかないと思っています。

ただなんのとっかかりもないと大変なので、少しでも参考になれば幸いです。

 

 

⚫︎描写内でPCの感情を断定しない

基本的に描写内でPCの感情を断定する行為は控えた方がいいです。

例えば「PCは亡くなった犬に別れを告げる」は行動の指針となりますが「PCは亡くなった犬に別れを告げて涙を流した」としてしまうと自由が失われてしまいます。

例え生き物が亡くなっても心を強く保ち涙を流さないPCかもしれませんし、逆に悪態をついて悲しい気持ちを誤魔化すPCもいるかもしれないからです。

TRPGの一番の魅力は「どんな行動をとり、どんな感情を持つか」をPLが自由に決めてシナリオを進めていいこと。

自由を束縛してしまう要素は極力減らすといいシナリオになります。

 

どうしても断定しないといけない要素がある場合、前提条件として書いておくのが親切です。

犬が嫌いなPCが来てしまうとシナリオが成り立たない場合は前提条件として「PCは犬が好きだ」と書いておけば、シナリオ想定通りに動く可能性が高まります。

その際たる例がCoCなら秘匿シナリオ、インセインならHOなどになるのでしょう。

 

 

⚫︎行動のきっかけだけを描写する

上記の続きになりますが、描写内には「次に何をしたらいいのか」「次の行動のきっかけになる動作」だけを書くようにするとわかりやすいです。

例えばPCを外に行かせたかったら「犬が外に行きたがっている」「外で誰か怪しい人が立っている」「隣の家の人に呼ばれている」などというきっかけを描写します。

これが「PCは猛烈に外に行きたくなった、何がなんでも外に行きたいのだ」などと描写してしまうと一気にギャグになってしまいます。

全体的にギャグシナリオならいいでしょうが、そうではないシナリオではテイストが訳わからなくなってしまいます。

GMにだけはわかるように「この場面ではこうしてほしい」と書いておくべきですが、PLにまでこうしてほしいと伝える必要はありません。

 

 

⚫︎なぜPCが行動するのかを考える

PCの行動原理はなんでしょうか。

 

例えば好奇心。PCは怖いもの見たさで幽霊が出ると噂の廃墟に向かいます。

 

例えば問題解決。PCの友人が行方不明になってしまったので、行方不明という問題を解決するために動きます。

 

例えば人助け。PCの身の回りで困っている人がいるため助けるために動きます。

 

例えば巻き込まれ。ただ日常を送っていただけなのに、ある日家に帰ったら家が血まみれの惨状になっていて、あれよあれよという間に自分が犯罪者に仕立て上げられてしまいます。

 

他にも様々な理由でPCはシナリオという大きなトラブルに巻き込まれ、トラブルを解消することを目的とするでしょう。

このシナリオに来るPCにどうしてほしいのかを明確にするのです。

 

好奇心が原動力なら、好奇心を刺激する強烈なメリットや莫大な報酬を提示します。例えばSNSでのバズだったり多額の金です。

 

問題解決が原動力なら、解決するに値する大きな問題を用意します。赤の他人が行方不明になっても何も感じませんが、友人が行方不明になればPCは心配するでしょう。

 

人助けが原動力なら、人を助けるに値する理由を用意します。例えば人々からの賞賛や栄誉です。

 

巻き込まれてしまったのならば、PCの原動力は「日常に戻ること」なので、日常に確実に戻れる道筋を用意しておきます。

 

このシナリオで、PCに何をしてほしいのか。これをはっきり決めておくとシナリオを組み立てやすいでしょう。

 

 

⚫︎興味深い伏線を散りばめ、回収する

シナリオは興味深い伏線がまったくなければ「平坦でつまらないもの」になってしまいます。

伏線がなくても面白いシナリオはあるかもしれませんが、それは同卓者の面白さに依存しているだけでシナリオの面白さではありません。

気になる伏線を一つは散らして、必ず回収するといいでしょう。

 

例えば上記の「わんだふる・でいず」を例にすると「目が覚めたらいきなり見知らぬ犬が部屋の中にいた」という伏線が最初に提示されます。

どこから部屋に入ってきた?その前になぜ部屋に入ってきた?などPLには様々な疑問が浮かびますが、構わず犬に連行させてPCを外に連れ出します。

そうして外に出て隣の家というキーポイントに到達して、初めて「犬が部屋に入り込んだのは、自分に助けを求めていたからだ」という伏線の回収がされます。

 

伏線は投げっぱなしだと「結局あれなんだったの……?」という不完全燃焼に繋がってしまうため、散りばめた伏線は全て回収していきましょう。

「わからないという恐怖」を演出するためなら、シナリオ内で全てを公開しなくても構いませんが、最悪シナリオを回すGMにだけはわかるように、背景情報には詳細を記載しておくと親切です。

二度目になりますが「わからないという恐怖」は多用は厳禁です。

こいつただ単に真面目に書く気ないだけなんじゃねえの……という印象になってしまいます。

 

 

⚫︎ここだけは捨てたくない!という確固たる要素を胸に持つ

シナリオを完成させるのに一番必要なものは「これだけは何があっても切り捨てない要素だ!!」という強い好きの気持ちです。

そう、最初の方で触れましたが、好きは最大の原動力になるのです!!

自分が好きでもなんでもないシナリオは書いていて苦痛になり、苦痛なものはいくら頑張ったって完成しません。

 

どんなに修正したって、これだけは曲げない!という要素を確定させるために、その3でストーリーをしっかりと書いたのです。

ストーリーを書いた時点で自分の好きがどこにもない場合は、思い切ってシナリオを没にして新しいメモを開きましょう。

 

シナリオを完成させるコツは、満足いくまで何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、書くことだけですから。

 

 

これでシナリオ作りは終了です。

さいごに少しだけ私の話をさせてください。