その3:シナリオを書こう!

さて、ようやくシナリオの書き方の話までやってきました。

 

「シナリオの書き方って言っても、なんか難しい話するんじゃないの……」とげんなりしている方がいるかもしれません。

大丈夫、難しい話は全然しません。できるだけわかりやすく解説します。

ここからは具体的な思考と行動の話だけでシナリオをどう書くのかをご説明いたします。

 

ゆっくりまったり好きな飲み物でも飲みながら、話を聞いていってくださいね。


①ネタをひたすらメモ!

その2までの段階をクリアした人たちであれば、頭の中に書きたいもののネタが1つや2つくらいあるんじゃないでしょうか?

そのネタをひたすら紙とペン、またはスマホの無料のメモアプリ(iPhoneなら標準搭載のメモアプリが優秀です)に箇条書きで書きまくりましょう!

一言だけでも構いません、脈絡がなくても構いません、箇条書きでとにかくメモ!

 

一例としてこんな感じです

・少年漫画みたいなヒーローになる

・可愛いものに囲まれる

・王道なホラーが書きたい

・昨日見た夢の内容が面白いからネタにしたい

・この小説が面白いからシナリオにしてみたい

・上位存在に蹂躙されながらなすすべなく世界が終わる様を見せつけられつつ死を感じ取りたい!

 

もしこんなシナリオを書きたい!がない場合、遊び足りない可能性があります。

もっともっとも〜〜〜〜っと遊びましょう!

 

 

そんな話をしている間に、メモし終わったんじゃないでしょうか?

②で実際にシナリオを書き始めてみましょう。

 

ただここで一つだけ注意点です。

何かの内容を丸パクリしたシナリオは、外には公開しないようにしましょう。

昨今オマージュの域を超えたシナリオが悪い意味で話題になってしまっていますが、SNSなど外に出なければ問題視はされません。

(鍵アカだろうとSNSで投稿した時点でそれは外に出たことになるのでお気をつけを)

好きなゲームを丸パクリして書いたシナリオも立派なシナリオではありますが、それは公開せず身内の間で遊ぶ方が問題が起こりにくいでしょう。

創作する時何からも影響を受けない人間はいません。丸パクリでもシナリオを完成させられたという成功体験ができるなら、私はそれはそれでいいと思っています(外に出さなければね)。

私も初めて創作した時はゲームの世界観丸パクリでオリジナルキャラクターを描いたものです、懐かしいな。

②シナリオの種を書いてみよう

さて、いよいよシナリオを書いていきます!

しかしいきなりシナリオを書くのはハードルが高いので、まずはシナリオの種を書きます。

 

まずは①や前回のその2などで書き溜めたメモを見返して、使えそうなネタを探してみます。

挑戦難易度が低いのは丸パクリからのスタートですが、今回は最終的に外に公開できるシナリオを目指してみるので、一旦身内向けの内容は横に置いておきます。

 

メモを見返していたら

・可愛いものに囲まれる

これとか使えそうな気がしますね。

優しい雰囲気のシナリオが書けそうな感じがします。

(CoCはコズミックホラーなんじゃ……とかそういうのは今回考えない方向でいきますね)

 

ネタを決めたら、どんなシナリオがいいか箇条書きで書いてみます。

ここは支離滅裂で大丈夫です。とにかく思いついたシーンだけ書いてみます。

 

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた

・可愛いものと一緒にお散歩した

・可愛いものに可愛いものを着せた

・可愛いものをハグした

・エンディング

 

 これでシナリオの種は完成です!エクセレント!

③シナリオの種を芽にしてみる

シナリオの種ができたら、次は芽にする作業です。

つまり、種を元に成長させる作業を行います。

 

先ほどの種を見返してみます。

 

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた

・可愛いものと一緒にお散歩した

・可愛いものに可愛いものを着せた

・可愛いものをハグした

・エンディング

 

ここに「えっ!?と思わせるいい意味の裏切り」を加えればストーリー性が豊かなシナリオに。

ここに「そうだね、こうきたらこうなるよねの安心感」を加えれば安定感のあるシナリオに。

ここに「まったく別のジャンル、例えばアクションを加えて一気にどんでん返し」を加えればスリリングなシナリオになります。

どんな栄養と水を与えるのかはあなた次第です。

 

一例を並べてみます。

 

「裏切り」を加えたシナリオ案

・「実は」可愛いものの正体は人間のおじさんだった

「えっ!?今まで触れ合っていた可愛いものは!?」という裏切りが生まれて一気に雰囲気が変わりました。

裏切りの枕詞は「実は」です。「実は」がついたら裏切り要素が入ったと思うとわかりやすいかもしれません。

 

「安心感」を加えたシナリオ案

・可愛いものとバイバイしてエンディング

「そうだね、可愛いものにも人生があるんだから、少し触れ合ったら日常に戻ろうね」という安心感が加わり、ほんわかしたシナリオに仕上がります。

目新しい刺激やドラマティックな展開は生まれませんが、こういう白湯(さゆ)みたいな落ち着くシナリオもちゃんと需要はあります。

 

「アクションでどんでん返し」を加えたシナリオ案

・可愛いものを狙う悪の組織との対決が始まる

何と戦っているんでしょう、犬派vs猫派の戦いかもしれません。

こうすると一気に雰囲気が変わってハリウッド映画みたいになってきましたね。

 

 

ここで要注意なのですが、どんな要素も加えすぎるとシナリオの芽が枯れます。

「裏切り」も「安心感」も「どんでん返し」もぜ〜んぶ入れちゃえ!!とすると、シナリオの元々の良さが逆になくなってしまうのです。

特にTRPGは当事者性の高い遊びのため、あまり多すぎる裏切りやどんでん返しはストレスに直結してしまいます。

「可愛いものが実は人間のおじさんで、実はそのおじさんは犬派の刺客で、実はそのおじさんはおじさんじゃなくて女子高生で、実は可愛いものは猫ではなく犬で……」みたいに裏切りを入れすぎるともはや何のシナリオか訳がわかりません。

一番伝えたい内容が何なのかもわからない上に、情報量が多すぎてPLのストレスにも繋がってしまいます。

裏切りやどんでん返しは慣れないうちは1つだけ、が無難でしょう。

 

今回は遊んだ人にえっ!?と思わせるストーリー性の高いシナリオにしてみたいと考えたので

・実は可愛いものの正体は人間のおじさんだった

この要素を入れてみましょう!

 

これを踏まえてシナリオの種に書き加えてみます。

 

 

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた

・可愛いものと一緒にお散歩した

・可愛いものに可愛いものを着せた

・可愛いものをハグした

・実は可愛いものの正体は人間のおじさんだった

・エンディング

 

 

一気に「何事!?」という感じになってきましたね。

次はこれに説得力を持たせる作業です。

④シナリオの芽を花に成長させる

ここまでのメモを振り返ります。

 

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた

・可愛いものと一緒にお散歩した

・可愛いものに可愛いものを着せた

・可愛いものをハグした

・実は可愛いものの正体は人間のおじさんだった

・エンディング

 

このままだと芽のままなので、これに説得力を加えてシナリオの花に成長させていきましょう。

もう少しでシナリオが完成します!頑張って!

 

説得力を加えるには「5W1H」を使っていきます。

これは 「When(いつ)」、「Where(どこで)」、「Who(誰が)」、「What(何を)」、「Why(なぜ)」、「How(どのように)」の5つのWと1つのHで構成された、文章を整理するために必要な条件のことです。

 

メモを元に5W1Hを埋めていきます。

 

いつ:

どこで:

誰が:

何を:

なぜ:

どのように:

 

まず真っ先に埋まるのは「誰が」です。

これは1つしかあり得ません。「PC(プレイヤーキャラクター)」です。

今回はCoCだから「探索者」ですね。

どんなシナリオも主人公はPCであるべきだからです。

埋められるところから埋めていきましょう。

 

いつ:

どこで:

誰が:探索者が

何を:

なぜ:

どのように:

 

次に決めやすいのは「いつ」です。

基本的に現代日本が舞台だとシナリオを想像しやすいし、遊ぶ方にもストレスがかかりません。

現代日本は日本語圏で遊んでいるPLに密接に結びついているもので、想像がしやすいからです。

もちろん現代日本でなくても構いませんが、架空の場所が舞台だとそれを決めるハードルが高くなるので、今回は省略します。

 

いつ:現代日本

どこで:

誰が:探索者が

何を:

なぜ:

どのように:

 

「どこで」も埋めていきましょう。

このシナリオ案、最初はどこからスタートしていますか?

そう、自宅からですね。朝、自宅で目を覚ましたら、可愛いものに囲まれていたところからのスタートです。

 

いつ:現代日本

どこで:自宅で

誰が:探索者が

何を:

なぜ:

どのように:

 

「何を」も埋められそうですね。

目を覚ましたら何があったか、そう、可愛いものがあったんです。

 

いつ:現代日本

どこで:自宅で

誰が:探索者が

何を:可愛いものを

なぜ:

どのように:

 

「なぜ」は少し難しいですね。

探索者に「何を」をどうして欲しいかを考えなければいけません。

このシナリオのコンセプトは?可愛いものを可愛がりたいですか?可愛いものをいじめたいですか?

今回は可愛がってみることにします。その方が後々の「実は……」の裏切りが強くなりそうです。

 

いつ:現代日本

どこで:自宅で

誰が:探索者が

何を:可愛いものを

なぜ:可愛がった

どのように:

 

最後!「どのように」可愛がったのか考えてみます。

これはそのままどんなイベントをシナリオ内で発生させるかに繋がります。

どのように可愛がったのかを考えてみましょう。

答えはもうシナリオ案に書いてありますね。そう、一緒にお散歩したり、可愛いものを着せたりするのです。

 

いつ:現代日本

どこで:自宅で

誰が:探索者が

何を:可愛いものを

なぜ:可愛がった

どのように:一緒にお散歩した、可愛いものを着せた

 

全部埋まりました!

これでシナリオ内容を整理できましたね。

並べるとこうなります。

 

「現代日本の自宅で、探索者が可愛いものと一緒にお散歩したり、可愛いものを着せたりして可愛がるシナリオ」

 

ここに「実は」の要素も足してみましょう。

 

「現代日本の自宅で、探索者が可愛いものと一緒にお散歩したり、可愛いものを着せたりして可愛がるが、実は可愛いものの正体が人間のおじさんのシナリオ」

 

これでシナリオのストーリーができました!

⑤シナリオ、完成!

最後に、シナリオ原案を元にもう少し突っ込んで書き足してみます。

 

今までのメモを見返しましょう。

 

ストーリー

「現代日本の自宅で、探索者が可愛いものと一緒にお散歩したり、可愛いものを着せたりして可愛がるが、実は可愛いものの正体が人間のおじさんのシナリオ」

 

展開

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた

・可愛いものと一緒にお散歩した

・可愛いものに可愛いものを着せた

・可愛いものをハグした

・実は可愛いものの正体は人間のおじさんだった

・エンディング

 

これらの辻褄が合うように整える作業を最後に行います。

ここが一番の難関です!頑張って!

 

まずCoCのルールブックを開きましょう。

そのまま全てをかっ飛ばして神話生物とかのステータスの項目に飛びます。

今までいろんなシナリオをやって、いろんなシナリオを読んでいるので、神話生物に関する知識がなんとなく身についてきているのではないでしょうか?

ルールブックの中からやりたいことに合いそうなものを探してみます。

 

と、言いたいところですが、正直神話生物とか知らん!って感じる人、いるんじゃないでしょうか。

気持ちはわかります。クトゥルフ神話の様々な設定に敬意を表して二次創作を行いたいところですが、正直そこまで難しいものわからないって人、多分多いと思います。

なので、クトゥルフ神話でシナリオを書く時のチートツールとしてお馴染みのあのお方にご登場いただきましょう。

 

千の顔を持つあのお方、ニャルラトホテプ様です。

 

このお方、他の殺意クソ高い神格と比べて、矮小な人間たちを狂気と混沌に陥れるのが好きなお方です。

「ふっ、おもしれー人間」と思えばなんだってやってくれることに定評があります。

やりたいことがあるけど上手く神話に絡めるのが難しい……という場合はもうチートツール(ニャルラトホテプ様)に頼っちゃいましょう。

 

これで黒幕を決めることもできました。

後は行間をできるだけ細かく埋めていくだけです。

シナリオに対して「なぜ?」「どうして?」を自問自答しまくります。

 

 

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた→なぜ可愛いものに囲まれていた?

・可愛いものと一緒にお散歩した→なぜお散歩をした?

・可愛いものに可愛いものを着せた→なぜ可愛いものを着せた?

・可愛いものをハグした→なぜハグをした?

・実は可愛いものの正体は人間のおじさんだった→なぜ正体がおじさんだった?

・エンディング

 

ここから突っ込んでいきます、これは書けるところからで構いません。

 

可愛いものに囲まれるシナリオ(仮)

そもそも可愛いものは何?→犬

・朝起きたら可愛いものに囲まれてた→なぜ可愛いものに囲まれていた?→可愛いものが助けを求めていたから

→囲まれていた、ではなく一体だけの方が集中できそう

・可愛いものと一緒にお散歩した→なぜお散歩をした?→可愛いものを可愛がりたかったから

→これは「犬の方が外に出たがった」の方が良さそう

・可愛いものに可愛いものを着せた→なぜ可愛いものを着せた?→可愛いものを可愛がりたかったから

→可愛いものを着せる必要はなさそう

・可愛いものをハグした→なぜハグをした?→可愛がりたかったから

→これも必要じゃなさそう

・実は可愛いものの正体は人間のおじさんだった→なぜ正体がおじさんだった?→おじさんは犬に憑依して助けを求めていた

おじさんは幽霊で、犬に憑依することで探索者に助けを求めていたのではないか?

ではなぜ助けを求めていた?→どうしても果たしたい未練があった

未練は何か?→大切な人にもう一度だけ会いたかった

なぜ探索者を頼った?→家が隣だったから?たまたまそこにいたから?→大切な人の隣の家に住んでいたから、だと説得力が増すかも

結局おじさんの大切な人は?→今も元気に生きている

おじさんが犬に入った原因は?→ニャルラトホテプが戯れに犬に魂を入れたから

・そもそも犬が嫌いな探索者だった場合どうすれば?→前提条件で「犬が好き」で固定してしまおう

・エンディング

タイトルは?→犬がある日突然現れる、可愛い感じのシナリオ、だから「わんだふる・でいず」とかどう?

(※シナリオタイトルは一旦決めてから検索すると被りを避けられます)

 

このようにひたすら自問自答していくと、シナリオの辻褄が合っていきます。

ホラージャンルでだけ使える必殺技として「わからないという恐怖」がありますが、多用はおすすめしません。

ひたすら自問自答したものを元に新しいメモ帳を開いて文を整えていきます。

自問自答を繰り返すたびに「これいらないんじゃね?」という要素が増えていくと思うので、そういうのはガンガン削っちゃって大丈夫です。

案外最初にできた案は属性盛りすぎじゃない?ってことが多いのです。

 

 

そしてついに完成したものがこちらです。

 

 

 

クトゥルフ神話TRPG「わんだふる・でいず」

・前提条件:探索者は犬が好きだ

・ある日、探索者が目覚めると足元に一匹の犬がいた、どこから入ってきたかはわからない

・犬は探索者のズボンの裾を咥えて引っ張る、どうやら外に出たいらしい

・犬に連れられるまま、探索者は外を散歩し始める

・探索箇所として隣の家(犬の大切な人がいる場所)が出てくる

・隣の家に行けば、おばさんが快く出迎えてくれる

・おばさんから「主人が亡くなった話」を聞ける

・犬の言動の癖が亡くなった主人の言動と一致することに気がつく

・犬は「正体がバレるまで現世で犬として動ける縛り」があったことを念話みたいなもので探索者に伝える

・犬の正体が実は亡くなった主人(おじさん)だった

・犬は探索者にお礼をしながら息を引き取る

 

・エンディング…戯れに犬に魂を入れた神(ニャルラトホテプ)の声が聞こえ、選択を迫られる

A:探索者は隣の家のおばさんと仲良くなり、犬のことを忘れない。

B:探索者は犬のことを忘れ、今まで通り過ごす。

 

 

 

おめでとうございます!!シナリオが完成しました!やったね!!

 

え?「巷で見かけるシナリオはこんな雑じゃなかった」って?

言いたい気持ちはわかります。ですが人によってはこの状態で十分シナリオを回すことができるので、これで完成でいいのです。

TRPGは極論を言えばアドリブの世界、シナリオ上に書いていないことをその場で作り上げていくことも醍醐味です。

 

とはいえ私のようにアドリブが苦手な人だと、これで回すのはちょっと無理がある……と思う方もいるでしょう。

それから、せっかくならもう少しそれっぽくしたいよ!という方もいると思います。

 

次の段階でもっとシナリオをリッチにする方法を書いていきます。

シナリオがリッチになればとても面白いですし、他人が見ても回せるように整えるとシナリオを公開することもできます。

 

後もう少し!頑張っていきましょう!

最後はその4です!